私の中にあるモノ
だが山口は、私が不快な表情をしているのを無視して、話し続けた。

「君達は、自分の中の竜の血が何処から生まれたものなのか、気になったことはないかい?」

そうね。

正直言うと、気になったことはなかった。

気にするほどの…余裕もなかった。

毎日、生きることだけで精一杯で…。

だけど、『竜の心臓』を前にして、ようやく分かった。

「…その竜の血は、『竜の心臓』から採取したものなのね」

「その通り」

…なんてことを。

「『竜の心臓』は…そんなことの為に存在してるんじゃない」

あなた達にとって便利な、竜の血の採取場じゃないのよ。

「そうかな?俺はそうは思わなかったけど」

山口は、悪びれもせずに微笑んだ。

「何故、遥か昔に滅びたはずの『竜の心臓』が現代にまで残っているのか?…俺なりに考えてみたんだよ」

「何を…?」

「それは、人間に滅ぼされた竜という種族が、後世に自分達の血を残す為の、彼らなりの対抗策だったんじゃないか、って」

…対抗策。

竜の血を、現代まで残す為の…。

「竜族…その中でも力の強い祖竜は、命を失っても、心臓を残すことが出来る。そして、心臓さえ残っていれば、その心臓に流れる血で、何らかの形で竜族を復活させることが出来る…」

「…」

「だからこそ祖竜は、人間に滅ぼされた竜族が、いつの日か再び蘇るように、『竜の心臓』を残して死んだ。すべては、自分達竜族を滅ぼした、人間への復讐と…そして、竜族の再びの繁栄の為」

山口は得意げに、持論を語った。

彼なりに考えた…祖竜の意志。

「…って、俺は思ってるんだけど。…どうだ?皆宮。俺の考えは、祖竜の意志と繋がってるか?」

わくわくと、クイズの答えを教えてもらう子供のように。

前のめり気味に、山口は私に問いかけてきた。

…大正解よ、良かったね。

…って、言うとでも思った?

「…残念だけど、大外れよ」

「えぇー…。…違うの?」

「違う。…全然、違う」

竜族は…祖竜は、私の中にいる彼は。

そんなこと、ほんの少しも考えてはいなかった。

「そうかー…。じゃあ、皆宮。君は本当の答えを知ってるんだね?」

「…えぇ」

「教えてくれないか?君が知る竜の記憶…。本当の、祖竜の意志ってものを」

…そうね。

どう説明すれば良いものか…。

「…そもそもあなたの考えは、前提が間違っているのよ」

「前提…?」

山口は最初、私に、「竜族は人間に滅ぼされた」と説明した。

実際、図書室にあるどの歴史書を見ても、この研究所のどんな報告書を見ても、そう書いてある。

人間が竜族を滅ぼした。

竜の叡智を恐れた人間が、数の力で竜族を追い詰め、彼らを絶滅させた…。

…私もずっと、そう思ってた。

だけど、そうじゃなかった。

…そうじゃなかったんだ。彼らは。

「人間が、竜を滅ぼしたんじゃない…。…竜は自分の意志で、自ら滅びるという選択をしたのよ」

「…」

その、驚いた顔を見ると。

自分が…自分達人間が、どれほど間違った…見当違いをしていたか。

ようやく、理解出来たようね。
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