聖女の愛した花園

 *

「っ、さゆり……っ」

 便箋の上にポタリ、ポタリと雫が落ちる。机の上には小さな小箱が置かれていた。卒業したら渡そうと思っていたものだ。

「ごめん……っ」

 本当はもう家のことなんてどうでも良くなっていた。たださゆりと一緒にいたくて、さゆりに自分だけを見て欲しくて。さゆりが僕だけのものになってくれるなら、生まれてくる子の性別なんてどっちでも良かったんだ。こんな形でさゆりを縛ってしまったために、不安な気持ちにさせていたことを強く後悔した。

 誰よりも君を愛していた。ずるくて弱い自分のことを愛してくれた君と子どもを一生守りたくて――卒業式の日に自分の覚悟を伝えようと思っていた。けれど、もう二度と君に会うことはできない。

 その時、ベビーベッドのある部屋から泣き声が響く。ハッとして涙を拭い、ベッドに駆け寄った。

結理(ゆうり)、お腹空いた?」

 尚も泣き続ける我が子をそっと抱き上げる。予め作っておいた哺乳瓶を口元に近付けると、結理は静かに飲み始める。その姿を見てホッと安堵した。

 改めてこの子が今生きていることは奇跡なんだと思う。愛する人と結ばれて授かり、様々な人との結びつきから生まれ、こうして一緒に過ごすことができている。さゆりの分まで愛情を持って育ててゆきたいと、改めて誓った。

 机の上に置かれた小箱の中には、二つの指輪が納められている。指輪の内側には「K・S」と彫られていた。

< 173 / 176 >

この作品をシェア

pagetop