聖女の愛した花園

第二章【白百合の沈黙】



 雛森家は正義の一族。それが祖父の口癖だった。
 祖父の雛森(たかし)は警察庁長官から防衛省に転任し、その後防衛大臣となった。父は現在警視総監、年の離れた二人の兄も優秀な刑事である。更には長兄の嫁も警察官という警察一家なのだ。私も将来は警察官になり、女性初の警視総監になるという密かな野望を抱いていたりする。

 警察一家というのは、時に知らなくていいことを知ってしまうことがある。私が中等部にいた頃、警察が学院に訪れていたことがあった。その中に次兄の姿を見つけたので、その日は寮に戻らず実家に帰って兄に訊ねた。兄は渋ったが、私がしつこく問い詰めるので「誰にも言うなよ」と前置きして話してくれた。

 ある教師が生徒から集める寄付金を横領していたらしい。その教師は有名な政治家の娘であり、横領が暴露されると大変なスキャンダルになる。親が横領していた金額を全額支払うということで、学院に取引を持ちかけた。この政治家は衆議院選挙を控えており、娘の逮捕で選挙に影響が出ることを恐れたのだ。


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