聖女の愛した花園
白雪正邦は母のことを助けようとはしなかった。生まれてきた私のことも認知しなかった。正邦にとって母との関係は一時的な遊びに過ぎず、不要になれば簡単に切り捨てられる程度のものだったのだ。母のことを愛してなどいなかった。母は最後の頼みとして、正邦に懇願した。
「どうか生まれてくるこの子のことだけでも我が子として愛していただけないでしょうか」
「何を言っているんだ。お前が勝手に身籠ったくせに」
「でも、あなたの子なんですよ!」
「それが?」
正邦は冷たく言い放つ。
「俺には家庭がある。それを壊してお前を選ぶメリットがあると思うか?」
関係を迫ったのは正邦の方だったのにすべての責任を放棄した。金だけ渡し、母のことを完全に見捨てたのである。両親を亡くした上に愛人には見捨てられ心身共にボロボロだった母だが、幼い私のために一生懸命生きた。母と二人、決して楽な暮らしではなかったが幸せだった。時折母は「流奈、苦労させてごめんね」と私に謝る。それでも私は幸せだった。母がいてくれるだけで充分だった。
私は少しでも母を支えようと家の手伝いは積極的にしていたし、勉強も誰よりも頑張った。母に負担をかけないように都立高校の進学を目指し、高校生になったらアルバイトを始めようとも思っている。
私が十四歳の時のことだ。とあるニュースが報道される。
『白雪財閥がA社とB社を買収すると発表しました』