聖女の愛した花園
リリスには白百合寮と黒薔薇寮という二つの寮があり、入学時にどちらかの寮に組み分けられる。二人の寮長は学院の代表であり、顔となる。その寮長に選ばれた妹は、次代の寮長候補というわけだ。
つまり私、雛森透はさゆりお姉さまから選ばれた次期白百合寮長なのである。最終的には全校生徒からの信任投票で決まり、過半数の票を獲得すると正式に寮長となる。
だから私はお姉さまの妹として、常に完璧でありたいのだ。常に完璧で正しいお姉さまに並び立つために。
「……」
「お姉さま、どうかされました?」
「ああ、いえ。何でもないの」
お姉さまはそう言ってニコッと微笑まれたけれど、何でもないという雰囲気ではない。
「何か気になることでもあるのですか?」
「大丈夫よ。ただ……最近よくものがなくなるの」
「ものですか?」
「ええ、ボールペンとか消しゴムとか。大したものではないけど、なくなると困るのよね」
「それなら私のをお貸しします」
「予備があるから大丈夫。ありがとう」
お姉さまは寮関係なく全生徒が憧れ、慕われる存在。中には熱烈な信者もいる。
きっとその中の誰かがお姉さまの私物を盗んでいるに違いない。お姉さまはお優しいから大事にはしないでしょうけれど、私は許さない。
すぐ傍でお守りしなければ。私は密かに気持ちを引き締めた。