氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
その本人が、玄関の大扉からまっすぐに現れた。

高く整った体躯、夜のように暗く澄んだ瞳。

その一歩一歩が、宮殿の空気すら震わせるようだった。
「遠路はるばる、ご苦労だった」

低く、よく通る声が私に向けられる。

私は慌てて礼をとった。

「アナベル・ルナリエです。……このたびは、末永くよろしくお願いいたします」

そして恐る恐る顔を上げた、その瞬間だった。

「っ……」

ルシウスがすっと手を伸ばし、私の顎を指先でそっと持ち上げた。

その動きはあまりにも自然で、しかし、拒む隙すらない。

「……なるほど。確かに、“聖女”と呼ばれるわけだ」

その目に、冷たい光が宿っていたのに――なぜか、熱を帯びているようにも感じた。

この人はいったい、何を見て、何を考えているの……?

胸がざわめき、私はそのまま彼の瞳から目を逸らすことができなかった。

< 15 / 62 >

この作品をシェア

pagetop