氷の皇帝と、愛に凍えていた姫君 ~政略結婚なのに、なぜか毎晩溺愛されています~
「ああ」

「……新婚なのに?」

思わずぽつりとこぼした私の言葉に、彼は少しだけ口角を上げた。
けれどその表情は、あくまで帝国皇帝としてのものだった。

「悪いな。公務に“新婚”はない」

――なんて冷たい。
昨日の夜は、あんなに熱く抱いてくれたのに。

あんな言葉まで交わしたのに。

心のどこかが、ひゅうっと寒くなった気がした。

「……今日はゆっくりしておけ。」

「……はい。」

少し落ち込んだ声で返事をすると、彼は無言で扉へ向かった。

そして、手にかけたその扉を開く寸前、ふと足を止める。

「……今夜も来る。」

「え?」

振り返りもせず、低く言い放った。

「抱かれる準備だけしておけ。」

「――っ、あ……」

顔が一気に熱くなる。

振り返ることもなく出ていく背中を、私は呆然と見送った。

まるで――心を持たないような態度。

でも、確かに昨夜の彼の言葉も、熱も、すべてが嘘じゃなかった。

私はそっとシーツを握りしめ、ぽつりとつぶやいた。

「……もう、なんなのよ……」

心は、まるで揺れる水面のようだった。

それでも、確かに――私は、あの皇帝の“妻”になったのだ。
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