君に花を贈る
「……な、なんでもない。ごめん、ちょっと動揺しただけ。……あのさ、花音ちゃんも、こいつ……理人って言うんだけど、かっこいいって思う?」

 振り返った藤乃さんの顔は真っ赤になっていた。
 ……そういう顔されると期待しちゃうから、止めてほしいなあ。

「かっこいいとは、思います。童話の挿絵みたいですよね。さっきも言ってましたけど、ほんとに王子様って感じで」
「……やっぱり」
「で、でも、本当にそう思うだけです。見るだけで十分っていうか……目の保養ってほどでもないし……私と背、同じくらいですし……」

 つい本音が出てしまって、藤乃さんはびっくりしたように目を丸くして、理人さんはくすっと笑った。

「……だそうですよ、藤乃さん。ほんと、相変わらず自信ないんだから。こんなにみんなに慕われてるのに」
「あるわけねーよ、そんなの」
「そうなんですか? でも、須藤さんもかっこよくて、私は好きですけど」

 そんなふてくされた顔、めずらしくて……つい、もう一度見たくなってしまった。
 藤乃さんは目を丸くしたあと、ゆでだこのように顔を真っ赤に染めた。

「……そ、そっか。ありがとう……」
「……え? あ、違うんです、好きって、そういう意味じゃなくて!」
「他にどんな意味があるんでしょう?」

 さっきまでは王子様みたいだった理人さんの笑顔が、今はすっかりいたずらっ子のそれになっている。こっちが慌ててるときに、そういうのやめてほしい……。

「あの、とにかく……理人さんが王子様みたいな見た目だったから、びっくりしただけで! えっと、それより……こちらの理人さんって、須藤さんのお友達なんですか? すごくお若く見えます」
「あ、うん! そう!」

 追い打ちを避けようと話題を変えたら、藤乃さんがパッと食いついてきた。助かった……!

「こいつは、俺が大学時代に住んでたアパートの大家さんの孫なんだ。今は葵と同じ大学行ってる」
「須藤さん、大学のとき一人暮らしされてたんですね」
「ええ。餓死しかけて倒れてた藤乃さんを、僕が拾ったんですよ」
「違うって。あのオンボロアパートの階段がさびてただけだろ」
「そのオンボロを選んだの、藤乃さんですよ? それに、お詫びに四年間ごはん作ってあげましたよね?」
「口止めって言ってただろう。しかもその分、宿題も塾の勉強も教えてやっただろが。葵と一緒に、うちを塾の待合室代わりにして……」
「……迷惑だったんですか?」



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