君に花を贈る
 突然、理人さんがしょんぼりした顔で藤乃さんを覗き込んだ。
 藤乃さんは、ばつが悪そうに一瞬だけ沈黙した。

「べ、別に……迷惑ってほどじゃ、なかったけど……」
「ですよねっ!」

 にこっと笑う理人さんは、やっぱりいたずらっ子みたいで。顔は全然似てないけど、兄弟みたいに見えて、なんだか見ていて楽しい。
 つい見とれていたら、理人さんと目が合ってしまった。

「藤乃さんって、ぶっきらぼうだし、ときどきズボラで、自信もないし、友達も少ないし、自炊もほとんどしないんですけどね」
「理人、悪口やめろって」
「でも、なんだかんだ面倒見がよくて頼れる人なんです。だから、どうか見捨てないであげてくださいね」
「お前、どの立場で言ってんだよ……。ごめんね、花音ちゃん……」

 真っ赤な顔のまま、藤乃さんが困ったように私を見てくる。
 ……なんていうか、今まで見てきたのは、かっこよくて優しいところばかりだったから。こんな一面、ちょっと新鮮で……うん、やっぱり好きだな、この人。

「大丈夫です……須藤さんが……あっ、いえ……なんでもありません……」
「ていうかさ!」

 藤乃さんが眉を上げて理人さんは振り向いた。

「結局お前は、何しに来たんだよ」
「レイラさんの誕生日が近いので、花束をお願いしに来ました」
「それを先に言えって。予算と入れたい花、それと茉莉野の好きな花とか色も」
「ほらね、やっぱり藤乃さんって、面倒見よくて親切です」
「うるせーな。ほら、この紙にさっきの書いとけ。店の中で気になる花があったら、それもな。俺は花音ちゃん送ってくるから!」

 藤乃さんは珍しく少し荒い口調で言いながら、受領書にさっとサインして、お店の裏口を開けた。
 それでも私が追いつくのを、さりげなく待っていてくれるところに、面倒見の良さと優しさがにじんでいる。

「ありがとうございます」
「いーえ、ごめんな。うるさくて。ったく、理人といい葵といい、ほんとに騒がしいんだ、あいつらは……」

 文句を言いながらも、藤乃さんは私の隣をちゃんと歩いてくれる。
 車に乗り込みながら、慎重に言葉を探した。さっきみたいに、勢いで余計なことを言わないように。

「……いつもと違う須藤さんが見られて、私は嬉しかったです。須藤さんは、見られたくなかったかもしれませんけど」

 やっぱり、余計なことを言った気がする。

「し、失礼しました……」

 急いでドアを閉めると、車はすぐに発進した。
 ラジオから流れる恋愛ソングを、つい小さく口ずさんでしまう。

< 18 / 131 >

この作品をシェア

pagetop