君に花を贈る
 花音ちゃんの誕生日から数日後、俺の浮かれ気分は一瞬で吹き飛ばされた。

「ふっくん、ひさしぶりー!」
「……帰れ!」

 その日の夕方、満面の笑みで店にやって来たのは従姉の鈴美だった。
 ふわふわした服で気が強そうに笑っている。
 好きか嫌いかで言えば大嫌いな従姉。

「相変わらず冷たいなー、ふっくん。あたし、お得意様なんだよ?」
「客って言うなら、さっさと花選んで、とっとと帰れ!」
「つれないなー。来月末の品評会に出すから、ふっくんお花選んでね。それとこれ、来週からの展覧会のチケット。観に来てよー」

 ぺらっと差し出されたチケットを受け取る。もう十年くらい、毎年もらってるけど、一度も行ったことはない。
 毎年、理人か葵に渡してるし、今年もそうする。

「どうせまた理人くんか葵ちゃんに渡せばいいって思ってるんでしょ! もー、たまにはふっくんが来てよ!」
「アラサーが“もー”とか言うな。鬱陶しい。目の前で破り捨てないだけありがたく思え」

 鈴美はむくれ顔でこっちを見上げる。……ほんと鬱陶しい。
 このしつこさ、本当に苦手だ。バサバサのまつ毛でバチバチ見てくるの、やめてくれ。
 ていうか、いつまでも俺に構ってないで、彼氏でも友達でも作れよ……ほんとに。

「とにかくこれ、欲しいお花のリストね。よろしくー」
「自分で選べ」
「だって、ふっくんが選んだ花のほうが、評判いいんだもん……」
「自分の見る目のなさを反省しろ。その甘さでプロ面すんな、図々しい」
「……うるさいなあ、もう。そういうとこがダメなんだってば」

 鈴美はぷいっとそっぽを向いた。
 それからもう一度、じっと俺を見上げてきた。鬱陶しくて睨み返すと、

「……ばか」

 と呟いて帰っていった。
 ほんと、勘弁してほしい……。
 チケットは事務所の机に置いて、渡された花のリストに目を通す。たまに「色はふっくんにお任せ」とか書いてあって、読むだけでイラッとする。

 ……鈴美が中学生のとき、フラワーアートで大きな賞を取った。そこから、俺ら従兄弟は親戚中に「鈴美を見習え」「鈴美みたいに頑張れ」「鈴美ちゃんはすごいわね。で、藤乃くんは?」なんて、やたらと比べられるようになった。
 俺は鈴美の五つ下で、親父が鈴美の父親の一番下の弟ってのもあって、とにかく比べられた。鈴美と比べてどれだけダメか、才能もない、役立たずって、伯父は延々説教してきた。
 俺が高校に上がる頃、母がやっと気づいて、ブチ切れた。それからは伯父の家には寄りつかなくなった。
 その母のブチ切れがきっかけで、祖母も家を出たけど……それはまあ、置いとく。
 その三年後、俺が大学生のときにまた伯父と母が揉めて、鈴美が母に謝って、とりあえず鈴美だけは、たまにうちの店に顔を出すようになった。

 でも、だからって、はいそうですかってわけにはいかない。
 十年以上、顔を合わせるたびに罵倒してきた伯父を、今さら許す気なんてない。多かれ少なかれ、それが鈴美のせいだってこともわかってる。

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