愛しのマイガール
九条薫子は、表では一切手を汚さない。それでいて、目的のためなら他人の人生ひとつくらい平気で踏みにじる女だということが、これでよく分かった。
「記事になってもいいと思わせる情報を、わざと流してるってことか。……性質が悪い」
「加えて、動く側もまた打算的です。“月城巴琉の婚約者”がどんな女か、嗅ぎたがっている連中は多い」
「……くだらねえ」
深く息をついて、椅子にもたれた。
冷静を装っていても、胸の奥がざらついて仕方ない。
るりは今も、あいつらの見えない悪意の中にいる。あの細い肩に、どれだけの重圧を背負わせる気なんだと思うと、はらわたが煮えそうになる。
「どこまで来てる?」
「すでに元同僚や旧友を名乗る人物に接触あり。金銭トラブルの有無、男性関係……事実無根の話でも、記事にできるだけの色をつけられれば成立するのが、今のメディアです」
「つまり、落ち度を作る準備ってことだな」
「ええ。火のないところに煙を立てる気です」
俺はゆっくりと、ファイルを閉じた。
「……あいつらにとっては、ただの駒かもしれない。でも、俺にとっては違う」
天城が一瞬だけ、眉をわずかに動かした。
「お前の本気が伝わっているからこそ、先手を打ってきたんだろうよ」
「……本気なんて、そんな生ぬるいもんじゃない」
言葉が、自分でも驚くほど低く落ちる。
「黙って見てる気はない。あの子が俺の人生にいるのは、もう“前提”だ。……世間にも、九条にも、それをはっきり教えてやる」