愛しのマイガール
「……もうやめろ」
掠れた声だった。薫子が眉一つ動かさずに、静かに首を傾げる。
「これ以上、俺を使うな」
その瞬間、薫子の目に冷えた光が宿った。
「なに言ってるのよ。そもそも、あなたが悪いんでしょう?私と婚約しておきながら、あの女を切らなかったから」
「……」
「これでも、婚約までは見逃してあげてたのよ?それに……先に彼女を傷つけたのは、誰だったかしら?」
その言葉に、胸の奥にしまい込んできた惨めさが一気にあふれそうになった。
かつて、瑠璃が自分を信じて笑ってくれていた頃。
あの綺麗な琥珀色の瞳に映る自分は、こんな男じゃなかった。
「だから、だ……」
拳を握る。震える指先に、最後のプライドを込めた。
「だから俺は、もうあの子を傷つけたくない。もう君の思い通りにはならない」
数秒の沈黙が、何よりも重たく場を満たす。
薫子は、少しだけ表情を歪めた。驚きなのか、それとも憐れみなのかは分からない。
翔真は何も言わずに視線を逸らし、ゆっくりと立ち上がる。背を向けた瞬間、薫子が何か言いかけた気配がしたが、もう耳に入らなかった。
ただひとつ、決めたことがある。
自分の手で、今度は瑠璃を守る。
彼女を守る男のもとへ、すべてを託しに行くのだ。