愛しのマイガール
会場に入った瞬間、空気が変わった。
月城グループが誇るラグジュアリーホテルの最上階。都心を一望できるバンケットホールには、豪奢なシャンデリアと、夜景を映すガラス張りの壁面が広がっていた。
普段は国賓クラスのレセプションにも使われるというこの会場に、今夜は無数のカメラと記者たちが詰めかけている。
シャッター音と小さなどよめきが、私の鼓膜を揺らす。けれど隣にいるハルちゃんの手を思い出して、静かに息を吸い込んだ。
「お足元にご注意ください」
スタッフの案内にうながされ、私たちは壇上へと歩み出る。
正面に並んだスポットライトが眩しくて、少しだけ目を細めた。
中央に並べられた二つの椅子に並んで腰かけると、ハルちゃんがほんのわずかにこちらを見て軽く頷いた。
私もそれに頷き返しながら、ゆっくりとマイクの前に目を向ける。
司会者の合図とともに、記者たちのフラッシュが一斉に光る。ハルちゃんがマイクを手に取り、落ち着いた声で話し始めた。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。この場をお借りして、私たちふたりの結婚について正式にご報告をさせていただきます。また、これまで一部でさまざまな憶測やご心配をおかけしたことについても、ここで改めて皆様にご説明し、誠意をもってご報告させていただきたいと考え、この場を設けました」
一拍の静寂を挟んで、はっきりと告げた。
「このたび、私たち月城巴琉と蓬来瑠璃は、結婚する運びとなりました」
ハルちゃんの声が、会場のスピーカーに響く。一拍おいて、ざわめきとフラッシュの波がが起きた。
思わず気圧されてしまって、一瞬だけ膝の上で指を組んだ。
そのとき、隣に座るハルちゃんの手がそっと手に重なった。
誰にも気づかれないように、ほんの一瞬。けれどそのあたたかさは、今までどんな言葉よりも心強かった。