愛しのマイガール
「話はるりから全部聞いた。訴訟のことも瑠璃の生活の安全面も問題ない。むしろお前が一緒にいた方が余計に話がややこしくなってた」
俺の言葉に、翡翠が眉をひそめた。
「は?なんでだよ?」
「重度のシスコンのくせに無自覚なのが一番厄介なんだよ」
文句を返す暇も与えず、俺はスイートルームのドアを開けて中へ入った。
「おい巴琉、お前、何企んでんだよ」
「企んでなんかねえよ。ああ、でも俺、るりと結婚するから」
「はああああああい!?」
あからさまな絶叫。次の瞬間、翡翠の手が俺の胸ぐらを掴んでいた。
「おまっ、…お前!純真無垢で天使のように可愛い俺の妹になに吹き込みやがった!」
「あー、シスコンマジでうぜえ」
鬱陶しさを隠さず、俺は翡翠の手を乱暴に振り払った。
「吹き込むも何も事実を言っただけだ。"俺が一生守ってやる"ってな」
「なっ……」
翡翠が固まる。
けれど、その顔に浮かんだのは怒りでも怒鳴り声でもなく、戸惑いだった。
「巴琉……まさかお前、今も瑠璃のこと……?」
信じられないという顔をして翡翠が訊いてきた。
俺は、ただにやりとだけ笑みを返した。
「なんだよ、知ってたんじゃねえのか」
「は……嘘だろ。マジかよ……」
頭を抱え込む翡翠を横目に、俺はデスク前の椅子に腰を下ろす。
まだ片付けてない仕事が山ほどある。手元のタブレットを操作しながら、気持ちを切り替えようとする──が。
無理だった。
どうやっても、さっきのるりの表情ばかりが浮かぶ。
小さく頷いたときの、あの仕草。
声を震わせながら「ありがとう」と言ってくれた瞬間。迷いながらも俺を信じてくれた、まっすぐな琥珀色の瞳。
……これは、もう“恋”なんかじゃない。
もっと深くて、もっと重たい、何かだ。
かつて、たった一言で俺を救ってくれたのはるりだった。だから今度は、俺が彼女の「居場所」になる番だ。
この手で、ちゃんと。
誰よりも近くで、彼女の弱さも、強がりも、全部、抱きしめてやる。