愛しのマイガール

スタッフが他の患者さまの視線をそっと遮るように配置につく。その瞬間、私は一歩前へと出た。

「ようこそいらっしゃいました、椎名様。いつもありがとうございます。控室はこちらへどうぞ。お飲み物は白葡萄のハーブティーでよろしいですか?」

声には、わざとらしい愛想も、媚びるようなトーンも混ぜない。ただ静かに、でも確かに相手を“特別”として迎える。

それが、このクリニックで私が大切にしている接し方だった。

椎名様はふっと口元を緩めて、少しだけサングラスをずらした。

「ああ……あなた、前も対応してくれたわね。覚えててくれたの? ほんとに気持ちがいいわ、ここ」

「ありがとうございます。前回いただいたご意見を、少しでも反映できていたら嬉しいです」

軽く会釈しながら控室の扉を開ける。

そのまま椎名様はご機嫌な様子で、控室へと姿を消していった。

「ふう…」

ひとつ深呼吸。同僚たちと目を合わせて、頷き合った。
無事に迎えられたことに安堵しつつ、またすぐに次の段取りへと気持ちを切り替える。

今日という一日が、まだまだ始まったばかりだということを、胸の奥で静かに感じながら。


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