愛しのマイガール
「けどハルちゃん…何も言わずにいたら、多分後で怒られちゃうよ…?」
「……だよな」
即答のわりに、ほんの少し間があった。
どこか諦めたような、本当に面倒くさいというような口調。
「じゃあ悪いけど、るりの方から連絡して顔合わす日程決めてくれないか?俺が言うと変に突っかかってくる未来しか浮かばない」
「……それ、ありそう。絶対ありそう」
「だろ?」
ふたりで顔を見合わせて、くすりと笑い合った。
さっきまであれだけ気を張りつめていたのに、こんなふうに笑える自分が不思議だった。
「じゃあ、お兄ちゃんには私から連絡しておくね。……けどお兄ちゃんのことだから、たぶん明日帰国した途端に飛んでくるんじゃないかな」
「じゃあやっぱり、あいつの連絡は最後か、むしろギリギリでいいんじゃないか?結婚するって話自体はもうしてあるし」
「そうなの?うーん…じゃあ、そうしようかな」
少しだけ困ったように笑いながら言うと、ハルちゃんの表情も少しだけ緩んだ。
その笑顔に、どこか安心している自分がいる。
(昔みたいにこんなふうに笑えるなんて、思ってなかった)
懇親会の熱も、視線も、音楽も、もう遠く感じる。
その時間の最後に、こうして隣で笑ってくれる人がいる。
それだけで、今夜はもう胸いっぱいだった。
「……今日は、本当にありがとう。緊張したけど、ハルちゃんがいてくれて、心強かった」
「こっちのセリフだよ。想像よりずっと上手く立ち回ってくれた。さすがだよ、るり」
その一言が、じんわりと胸に染みていく。
少し遅れて、スタッフが退出の案内にやってきた。
気づけばもう、懇親会もすっかりお開きの時間だった。
私は深く息を吸い、グラスをそっと置いた。
数日後には、報道が動く。
両親には今夜中に連絡しなくちゃいけない。
ちょっと波乱の予感はするけど、もちろんお兄ちゃんにも。
けれど、今は。
この非日常すぎた夜を、彼の隣で最後まで歩けたことだけで、私はもう十分だった。