愛しのマイガール
その一言が、どこまでもやさしくて。私のことだけを思いやってくれているようで、心がじんわりと温かくなる。
私は、ほとんど迷わず頷いた。
「……わかった。私、ここで暮らす。ハルちゃんのため、っていうのもあるけど……私自身が、ここにいたいと思ったから」
口にして、少しだけ驚いた。でも嘘じゃなかった。今の私の、正直な気持ちだった。
「ありがとう、るり」
ハルちゃんの声は、春の陽だまりみたいに穏やかだった。
私がこの家に住むということ。それはただ身を寄せることじゃない。
月城という家に、そして“月城巴琉”という人の人生に、足を踏み入れるということ。
最初は、保身だったかもしれない。
あの混乱の中、私は“逃げ場所”として、ハルちゃんの手を取った。
でも今は違う。彼の隣にいるこの空間が、私にとっても“ちゃんといたいと思える場所”になっていた。
守られるだけじゃない。私が、自分の足で選んで立つ場所。逃げるためじゃなく、進むために。
「ねえ、ハルちゃん。……お願いがあるの」
「ん?」
「私、ここでただ置いてもらうだけじゃ申し訳ないの。だから私にも、できることをしたい。何か、力になれることがあるなら……私、やりたい」
ハルちゃんの瞳が、ほんの一瞬だけ驚いたように揺れる。けれどすぐに、静かに細められたその目に、彼の心が見えた気がした。
「……本当は、そばにいてくれるだけで十分なんだけどな」
低くて柔らかいその声に、一瞬だけ胸がときめく。
「……でも、きっとるりはそれじゃ納得しないんだろう?」
私はそっと頷いた。
「わかった。……なら、月城のことを少しずつ知っていこう。確かに、知識や立ち居振る舞いが必要な場面もある。準備するよ、“月城瑠璃のためのカリキュラム”を」
「……ありがとう、ハルちゃん」
もう一度、そっと口にする。
彼は、静かに微笑んで頷いてくれた。
応接室に訪れた沈黙は、さっきまでとは違う。それは緊張ではなく、これからの日々を迎えるための、静かな準備の音。
その音が、私の中で小さく鳴りはじめていた。