宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
もうそこに、帝の意思などなかった。

ただ「帝」として、祭り上げられた存在にすぎぬのか――

「……元来、帝の妃というものは、そういうふうに決まるものです。」

雅綱がそう続けた時、その言葉が静かに帝の胸の奥に突き刺さる。

まるで、自分の“綾子を愛した行為”が、愚かで、異例で、そして無力だったかのように。

帝は目を伏せた。

頭の中に雅綱の言葉だけが、静かに、何度も響いていた。

「帝。詠子の入内、整えております」

左大臣・藤原 公衡が、いつものように穏やかな口調で告げた。

儀式の準備、住まいの手配、女房の選定――すべてが滞りなく進められ、残るは帝の裁可のみ。

「後は、帝のご裁可を待つのみでございます。」

帝・彰親は、言葉を返さなかった。

ここまで、自分の意思が問われることは一度もなかった。

ただの形式、ただの了承。

それを“選択”と呼ばれることが、なぜだか――ひどく嫌だった。
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