宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
「……それは、ありがたいことだ」
静かに、形式的に、それでいてほんの少しだけ柔らかく返す帝の声に、詠子は深く頭を下げた。
――誰かが、自分を想ってくれる。
それは、帝という孤高の存在にとって、皮肉なことに“嬉しい”と感じる瞬間でもあった。
だが同時に、心の奥底にはまだ綾子のぬくもりが残っていた。
その差を自分がどう埋めるのか、帝自身もまだ分かっていなかった。
「あの……」
御簾の向こうで、年若い妃――藤原詠子が、少しだけためらいを含んだ声で続けた。
その声音には、覚悟と恥じらいが交じっていた。
「私は、十五の折に……帝を拝見しております。」
帝・彰親は、思わず目を細めた。
「五年前のことか。」
「はい……」
五年前――自分はまだ二十歳。
皇太子ですらなく、ただの皇子の一人にすぎなかった頃だ。
それでも、宴や儀式の場には出ていたかもしれない。
静かに、形式的に、それでいてほんの少しだけ柔らかく返す帝の声に、詠子は深く頭を下げた。
――誰かが、自分を想ってくれる。
それは、帝という孤高の存在にとって、皮肉なことに“嬉しい”と感じる瞬間でもあった。
だが同時に、心の奥底にはまだ綾子のぬくもりが残っていた。
その差を自分がどう埋めるのか、帝自身もまだ分かっていなかった。
「あの……」
御簾の向こうで、年若い妃――藤原詠子が、少しだけためらいを含んだ声で続けた。
その声音には、覚悟と恥じらいが交じっていた。
「私は、十五の折に……帝を拝見しております。」
帝・彰親は、思わず目を細めた。
「五年前のことか。」
「はい……」
五年前――自分はまだ二十歳。
皇太子ですらなく、ただの皇子の一人にすぎなかった頃だ。
それでも、宴や儀式の場には出ていたかもしれない。