宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
その瞬間、控えていた詠子の父――左大臣・藤原公衡が、満面の笑みで前に進み出る。
「今夜は、新しい夜になりますな、お上。」
「……今夜?」
帝が少し眉を寄せて聞き返すと、公衡は当然といった様子で応じた。
「入内した日に、夜を共にされるのが習わしではございませんか。 それが、正式な“召し初め”というものです」
その言葉に、詠子は御簾の内で小さく肩を震わせ、顔を真っ赤に染めた。
耳まで紅潮し、膝の上で手をぎゅっと握りしめている。
帝は静かに目を伏せた。
そうだった。女御として入内したその夜――
妃としての“初めて”を交わすことは、政の形式であり、宮中の習いでもある。
「……そうだな」
短く答えながらも、心の奥では微かなため息が揺れていた。
それは愛ではなく、義務。
綾子を抱くときのような衝動も、欲もない。
それでも帝は、帝である限り――詠子の父が期待し、詠子自身が震えながら待つその「夜」を、避けることはできなかった。
「今夜は、新しい夜になりますな、お上。」
「……今夜?」
帝が少し眉を寄せて聞き返すと、公衡は当然といった様子で応じた。
「入内した日に、夜を共にされるのが習わしではございませんか。 それが、正式な“召し初め”というものです」
その言葉に、詠子は御簾の内で小さく肩を震わせ、顔を真っ赤に染めた。
耳まで紅潮し、膝の上で手をぎゅっと握りしめている。
帝は静かに目を伏せた。
そうだった。女御として入内したその夜――
妃としての“初めて”を交わすことは、政の形式であり、宮中の習いでもある。
「……そうだな」
短く答えながらも、心の奥では微かなため息が揺れていた。
それは愛ではなく、義務。
綾子を抱くときのような衝動も、欲もない。
それでも帝は、帝である限り――詠子の父が期待し、詠子自身が震えながら待つその「夜」を、避けることはできなかった。