宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
その日の夜、帝の寝所には、正式に入内した藤原詠子の姿があった。

薄く灯りの落とされた帳の中、詠子は既に白い寝着に着替えており、几帳の前に小さく座していた。

だが、その肩はわずかに震え、顔色も蒼ざめている。

帝・彰親はその様子に気づき、ため息混じりに声をかけた。

「……そんなに固くなるな。」

義務であれば、早く終わらせてしまおう――

そう思っていた。儀礼として、皇位にある者の務めとして。

心はどこか冷めていた。

だが――その時だった。

「……優しくしてください……」

震える声が、帳の中にそっと響いた。

綾子のように妖艶な色気も、誘うような目配せもない。

ただ、必死に言葉を搾り出すような、その一言。

「……男と夜を共にするのは、初めてか。」

帝が問うと、詠子は小さく頷き、潤んだ瞳でこちらを見つめた。

「……はい……」

泣きそうな表情だった。

畏れと不安と、それでも拒まぬ意志が混ざった、純粋すぎる顔。
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