宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
帝はしばらくその瞳を見つめていたが、やがて静かに息を吐き――

そっと彼女の手に触れた。

この少女に、無理をさせたくない。

そう思った瞬間、自分の中にあった“義務”という言葉が、少しだけ崩れていった。

「今夜は、何もしない。」

帝・彰親はそう告げると、ゆっくりと詠子の前に腰を下ろした。

その言葉に、詠子の瞳がわずかに揺れる。

そして、震える手で帝の衣の裾をそっと掴んだ。

「いえ……お手を、付けられませ。」

その声はかすかに震え、涙を堪えるような響きがあった。

「私は……大丈夫です。帝の望みを、拒みたくはありません。」

それを聞いた帝は、困ったように小さく笑い、首を振った。

「……そんなわけないだろ。誰が見ても、そなたは怖がっている。」

そう言って、そっと詠子の身体を抱き寄せると、柔らかな寝床へと身を横たえさせた。

彼自身もその隣に寄り添い、優しく腕を回す。
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