宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
「婚礼の儀においては、三夜通いが通例にございます。今宵も詠子の元へお運びを。」

「……三日も、か。」

ぽつりとこぼしたその言葉に、公衛の眉がかすかに動いた。

「何か……お気に召しませなんだか。」

帝はゆっくりと視線を上げ、公衛を見据えた。

「いや、あれはあれで……よい。」

微かにそう告げたが、どこか寂しげな声音が残る。

義務としての夜。それ以上でも、それ以下でもない。

帝の心は、まだ綾子の面影を抱いたままだった。

そして、今宵も詠子が帝のもとにやってきた。

絹の衣擦れの音を立てながら、静かに御簾の内へと進み出る。

「今宵は……妃の役目を果たします。」

そう告げた彼女は、決意を秘めた眼差しで寝着の紐に手をかけた。

だがその細い指先は微かに震えている。

「震えているぞ。」

帝が言うと、詠子は目を伏せながらも寝着を脱ぎ、肩をあらわにした。

「それでも……初めてを、帝に捧げたいのです。」
< 46 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop