宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
詠子の指がわずかに震えた。

「帝は……明日からまた、綾子様のお側に戻られるのでしょう?」

その名を出す時、詠子の声がほんの少し揺れた。

「そなたは……嫉妬しているのか?」

「……いいえ。」

答えは否定だったが、その言葉はまるで肯定のように、帝の胸に響いた。

「私は、わかっております。私は政のために選ばれた妃。帝の御心がどこにあるのか……初めから、分かっていたのです。」

その健気さが、帝の心を揺らした。

「詠子……」

呼びかけても、彼女は顔を上げなかった。ただ、綾子という名に勝てぬと悟りながら、それでも帝に愛されたいと願っていた。

その想いが、ひたすらに哀しかった。

帝は、静かに詠子の肩に手を添えた。

「今宵は、最後までそなたを抱こう。」

その声は、どこまでも優しく、決意に満ちていた。

詠子は小さくうなずいた。

「……はい。」
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