金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う
 彼はいつもそばにいてくれた。それがたとえ餌をもらうためだったとしても、なついてくれるのは素直に嬉しかった。ひとりじゃないと思えた。
「そこでなにをしている?」
 声に振り返ると、こぼれる月光に照らされ、背の高い男性が立っていた。

 見知らぬ人だが、不思議と怖くなかった。黒い、見たことのない服装をしている。洋装だろうか。体にぴたりとして動き易そうだが、長袖なので暑そうだ。腰に下げているのは太刀だろうか。黒髪の下の黒い瞳が、きらりと黄金に光って眞白を見つめる。
 眞白は顔を伏せた。

「唯一の友達だった鳥が天へ帰ったので、お墓を作っていました」
 死んだ、とは言いたくなかった。
「そうか、それは悲しいな」
 眞白は目を見開いた。
 労りの言葉など久しぶりだった。

 男性は眞白の隣に寄ると、白い皮手袋を脱いでコウヤの墓に手を合わせてくれた。
 眞白の胸に、なんとも言えない気持ちが沸いてくる。
 一緒にコウヤを悼んでくれる人がいる。
 それだけでまた涙があふれ、ぽろぽろとこぼれた。

「コウヤと聞こえたが、友達の名か?」
「はい。恐れ多くも皇子様のお名前をいただきました」

「俺もコウヤというんだ。奇遇だな」
 皇子の名が公表された際、あやかって同じ名をつける庶民が多かった。だからその名は珍しくはない。

 だけど、この人は誰なんだろう。
 思ってから、はっとした。
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