金の龍皇子は銀龍の娘を花嫁に乞う
 都から使者が来ているのだから、そのひとりかもしれない。
 再び見た彼の黒髪が、月光を浴びてなぜか金色に輝く。

「あの……」
「なんだ?」

「私と会ったことは内緒にしてください」
「どうしてだ?」

「きっと、罰せられるから……。都からのお使者様ですよね。私はお目汚しだから……」
「誰であれ「お目汚し」などということはない。優しいお前であればなおさらだ」
 慈愛に満ちた言葉に、眞白はまた泣きそうになった。

「夜の森は獣が出て危ない。今宵はもう帰ろう」
「……ありがとうございます。ですが」
 一緒に帰ったりしたら、なにを言われるかわからない。

「お前が帰らぬなら私も動かぬ。私が帰らねば村が騒ぐであろうな。お前が案内して私を帰らせよ」
 脅迫だ、と思った。だが、こんな優しさに満ちた脅迫など初めてだ。

「さあ、どうする。私をひとりで帰すと村への道がわからずに迷うかもしれぬぞ」
 彼の目がいたずらっぽく細まり、眞白はくすっと笑った。友達をなくしたばかりなのに、とすぐに自分を責める。だが、彼の優しさを無碍にするわけにはいかない。

「ご案内します」
 眞白は涙を拭って立ち上がった。
 最後にもう一度コウヤに手を合わせ、それから彼とともに村に向かった。

 村へ戻ったコウヤはなぜか別れがたそうにしていたが、「すぐにまた会おう」と言って去った。

 厩にもどり、ふうっと息を吐く。
 馬房の馬は眞白など気にする様子もない。
 通路に布団もなく横になったときだった。

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