今日も推しが尊いので溺愛は遠慮いたします!~なのに推しそっくりな社長が迫ってきて!?~
「さすがだな。優秀な秘書のおかげでとても仕事がやりやすい。いつもありがとう」
「いえ。それが私の仕事ですので」

視線を落としつつ短く答えたけれど、もちろん悪い気はしない。

雪雅の前に数人の役員を担当してきたけれど、彼ほど気持ちよく『ありがとう』と言葉にしてくれた人はほぼいなかった。雪雅は芽衣子だけでなく、たとえば役員フロアの掃除をするアルバイトの若者にも同じように礼を言う。すると、彼らの仕事ぶりはいつもよりずっと丁寧になるのだ。どうすれば部下が最大限の能力を発揮するか、よく心得ているのだろう。

(人の上に立つべくして立っている人……よね)

彼の視線がまだ追いかけてきていることに気がついて、芽衣子は顔をあげる。

「あの、ほかにもなにか?」
「君は次の会議が終わったら直帰するように。今夜のパーティーは俺ひとりでも問題ないから」

このあとの予定は取引先に出向いて会議、夕方からは業界団体のパーティー。プライベートの予定ならともかく、雪雅が明確に仕事として参加する接待や会合には秘書である自分も同行もしくは終了まで近くで控えているのが常だ。

それを拒否されたということは……。

「申し訳ありません。なにか至らない点がございましたか?」

そういうことなのだろうと思って芽衣子は頭をさげたが、彼は穏やかな声で「そうじゃないよ」と言う。

「今日は顔色がよくない。風邪でも引いたんじゃないのか?」

自分を気遣う言葉なのだと理解するのに、少々時間を要してしまった。

「あ、いえ。ゆうべ、ちょっと夜更かしをしてしまったので。そのせいです。体調はまったく問題ありませんので」

(ごめんなさい、ゲームに夢中になりすぎてとはさすがに言えません)
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