新婚旅行江戸日和
(私はリモートワーク。翠さんも学校が休校でリモート授業だからずっと家にいる。好きな人と二十四時間一緒なんだけど……)

心はずっと重いまま。こんな形でずっと一緒にいても「嬉しい」より「しんどい」が買ってしまう。

私の目がふとリビングの本棚に向く。そこには小説に混じって雑誌が並んでいる。「結婚式」や「新婚旅行」と書かれたその雑誌を見ると、胸の奥が切なくなる。

(結婚式挙げたかったな。新婚旅行だって行きたかった)

でもこのご時世でそんなわがまま言えない。不要不急の外出は控えないと。

「翠さん。夕食のデザート食べる?」

重く沈んだ心を誤魔化すように、私はわざとらしく明るい声を出した。



それから数日。時間は経つけど生活は全く変わらない。食料品や日用品の買い出し以外は家の中。翠さんと二人きり。結婚したばかりなのに暗い顔なんて見せられない。だから頑張って口角を上げる。

「翠さん!コーヒー淹れたけど飲む?」

「ありがとう。いただこうかな」
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