契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~
私はもう一度、目を閉じた。

眠りではなく、ただ――心を落ち着かせるために。


夕暮れ時。

障子の外が茜色に染まり始めた頃、玄関先に人の気配がした。

「圭一郎さん……!」

私は思わず立ち上がり、慌てて廊下を駆けていく。

「お帰りなさいませ。」

少し息を弾ませながら頭を下げると、圭一郎さんは少し驚いたようにこちらを見た。

けれど、すぐにふっと微笑むような表情を見せた気がした。

「上着を……預かります。」

私は彼の羽織に手をかけながら、ふと、これから何をすればいいのか分からなくなった。

妻とは――何をすべきなのだろう。

もたつく私の手を見て、圭一郎さんはふいに手を伸ばし、私の頬にそっと触れた。

「……新鮮だな。」

その言葉に、胸がきゅんと音を立てる。

頬に触れる手は冷たくない。

朝、あんなふうに私を置いて行った人とは思えないほど優しくて――
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