契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~
私が圭一郎さんの上着を抱えて、廊下の衣紋掛けへ向かおうとしたときだった。

「……梢。」

その声に、私は足を止めた。

後ろを振り返ると、彼がこちらへと歩いてきていた。

「はい。」

その呼び方――名前を、初めて彼の口から聞いた気がした。

それだけで、少し胸が高鳴る。

けれど圭一郎さんの表情はどこか硬く、口元にはわずかな緊張の影が浮かんでいた。

「何でしょう……?」

聞き返すと、彼は立ち止まり、真っ直ぐ私を見た。

「今後のことなんだが。」

私は自然と背筋を正していた。

その響きが、あまりに真剣だったから。

「……お互い、干渉するのはよそう。」

「……え?」

思わず、聞き返してしまう。

圭一郎さんは、わずかに視線を逸らすようにしてから続けた。

「両親がそうだった。 常に相手の腹の内を探り合って、言葉の裏を読んで……やがては、顔を合わせるたび喧嘩になる。」
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