契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~
まるで台詞を忘れた役者に、演出家が合図するみたいに。

「ええっと……」私は慌てて言葉を探した。

「家同士を結び付ける、大切な縁かと……思います。」

無難すぎる答えだったかもしれない。けれど、それ以上の本心は、口にする勇気がなかった。

「そうか。」

圭一郎さんは短くそう言うと、静かに私の向かいの席に腰を下ろした。

「俺は、跡継ぎを産んでくれるなら、それでいいと思っている。」

その言葉は、まるで契約内容の確認のようだった。

心も情もない、ただ事務的な響き。

――この人、愛情ってものを知らないの?

私は思わず、視線を伏せた。

けれど次の瞬間、圭一郎さんはふいにぽつりと呟いた。

「両親は、恋愛結婚だった。」

「……え?」

またもや言葉が出なかった。

その口調はどこか、懐かしさとも皮肉ともとれた。

「……だから、余計に分からないのかもしれない。感情で結びついた者たちが、どうしてすれ違い、壊れていくのか。」
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