契りの花嫁 ~冷たい夫が、私に恋をした日~
私は思わず顔を上げた。

圭一郎さんの表情は変わらず無表情だったけれど、その目の奥に、わずかな陰を見た気がした。

愛情を知らないのではない。

――愛情に、裏切られた人なのかもしれない。

それは、ほんの少しだけ、この冷たい男のことを知ったような気がした瞬間だった。

「式は一週間後にしますか。」

そう告げたのは、父だった。まるで商談の締結でもするような声色で。

圭一郎さんは一瞬黙り、やがて静かに頷いた。

「ええ。必要な物はこちらで揃えます。……お嬢さんは、身一つで来るといい。」

その言葉に、私の胸の奥がじくりと痛んだ。

“身一つ”――それはきっと、こういう意味だ。

――どうせ借金まみれの家に、嫁入り道具を用意する余裕などないだろう。

――何も持たずに、ただ子を産むためだけに嫁いでくればいい。

圭一郎さんの顔は相変わらず無表情で、優しさも侮蔑も、読み取れなかった。
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