紳士な弁護士と偽りデートから

晴れの探偵事務所!

 翌日から出社したあかりは、ひとまずコーヒーマシンを綺麗にして、セットした。
 まだみんな出社していないようだ。
 7時半、嬉し過ぎて早く来てしまったのだ。
 コーヒー、飲んでもいいかな? 新人だから、勝手にはいけないか、と、あかりはソワソワした。
 別室の扉が開いて、あかりはドキリとした。
 欠伸をしながら漆山がやってきた。
 ボサボサの頭に、昨日と同じ服装。
「橘さん、来るの早いねぇ」
「嬉しくて早く来てしまいました」
「コーヒーセットしたんだぁ。ありがとう。飲む?」
「はい! 実は欲しかったのです」
 あかりは恥ずかしそうに言った。
「これからは遠慮することないよ? 同じ社員なんだし」
「ありがとうございます。それでは、早速頂きます」
 あかりはコーヒーを淹れた。

「橘さんは、何でも嬉しそうにするね」
「そうですか?」
「うん。あ、自覚なし?」
 あかりはキョトンとした。
 漆山は砂糖とミルクを入れて、コーヒーを飲みながら言った。
「漆山さんは甘党ですか?」
「ブラックは飲めなくてね。橘さんはいける口?」
「わたしもつい、砂糖とミルクを入れちゃいます」
「同士じゃないー」

 喫茶店巡りとか好きそうな雰囲気よね、なんてあかりは思う。

「ところで、シャツなど同じ服でしたけど......、ここに泊まったのですか?」
「うん、よくやるよ。独り身だし、この方が楽。パンツはコンビニなんかで買えるし、シャワーはネットカフェがあるしね。ボスは、身だしなみをしておけば許してくるれるからね。あと、アンティークな小物を壊さなければ、寝泊まり自由だよ」

「なぁにが寝泊まり自由だぁ? 咲哉が、甘えるんだろう。ここに泊まらせてって」
 ドアが開いたら、ボスのお出まし。
 なんだか漆山の真似で、可愛く言う言動が、可愛かった。あかりはクスクス笑った。
「なんだ、聞いてたのか。ボス」
「おはようございます」
「おはようさん。俺もコーヒー貰おうかな」
「はい」
 あかりは所長の分までコーヒーを入れる。

「ところで、昨日の......、和美さん、という方は?」
 8時になっても、なかなか来ないので聞いてみた。
「俺の家内なんだ」
「えっ? 奥様でしたか?!」
「坪平の知り合いが面接に来ると言ったら、見に行きたいと煩くてね」
「そうでしたか。え?! それでは、二人だけでやってらっしゃるんですか?」
「いや、あとは現場だよ。咲哉も和美と一緒で、ごねたんだ」
「どんな奴かみたかったんだ。そうしたら、女性だったじゃない。嬉しかったねぇ」
「では、わたしもそのうち?!」
 あかりは嬉しくなった。

「ん......、あ、いや.....、君は計算が得意みたいだから、事務扱いなんだ」
 
「......ん?」

 あかりは思わず失礼な声を出してしまった。
「え? じ、事務?」
 二人は苦笑い。
「う、うん。まぁ......、現場はなかなかね。イロハを教えなきゃいけないし」

「そ、そんな!!」
 あかりは悲しみを訴える。

「まぁ、現場が忙しくなくなったら......、教えるよ」
 ボスの田所。
「ひどすぎます!!」
 ダンディな雰囲気を醸し出す田所は、ダンディでなくてあかりにとってはやさくれヤクザにしか見えなくなった。


【北欧のそよ風】に行きたくなって、あかりはその場でLINEした。  

 
  
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