紳士な弁護士と偽りデートから
 あかりは早朝から髪のセットを綺麗にして、化粧道具をカバンに詰め込んだ。
「夜は少し、濃いめのリップにしよっと」 
 海都にさりげなく買ってもらった洋服を着る。今日は待ちに待った海都とのデートだ。
 
 この間の休みも、偶然海都に会えたから、その後の仕事が早く終えるように感じられた。

 ......でも、私たち、まだ付き合っていないのよね?あかりはそんな事を、ふと思った。
 けれど、久しぶりに楽しい感覚だ。

 探偵事務所に行き、コーヒーをセットする。
 廊下から靴音が聞こえた。多分、ボスかな? と、誰の靴音が分かるくらいにまでなった。
「おはようさん」
「おはようございます」
 あかりは振り向いて、頭を下げる。

「おっ? なんか今日はいつもと違うな」
「はい! 夜は知り合いと食事なんです」
「張り切っているわけだ」
 ボスは席に腰掛けると、あかりはコーヒーを差し出した。
「いつもありがとう。なんなら、仕事もテキパキしてるし、やる事がなかったら、早く帰っても大丈夫だから」
「いえ、そんな訳にはいきません。仕事ですから」
 あかりは微笑んで、席に着いた。
 田所は感心しながら、パソコンを眺める。


 時刻も定時になり、あかりはタイムカードを押して、
「お先に失礼しまーす」
 と、帰ろうとすると、
「帰る前でよかった!」
 咲哉が慌てて事務所に入ってきた。

「漆山さん、どうされました? ......素敵なお召し物ですね」
 じろじろ見るのは失礼かと思ったあかりだが、普段よりすごく決まっている。いつも決まってはいるが、今日はまた一段と。 

「現場に出たいって言ってたよね?」
「え? ええ......」
「現場のイロハを教えるから、一緒についてきてもらいたいんだ」
「えっ?! 現場のイロハ?!」

 すると、
「いや、今日橘君、予定があるみたいだけど.......」
 田所がそうやって、教えた。咲哉も人の弱味に漬け込むなぁ、なんて田所は思った。

「そうでした。大事な予定があります」
 あかりの言葉を聞いて、田所はほっとした。
「でも、現場だけど? 少しずつ知りたいんじゃない?」
「うっ」

「咲哉、いい加減に......」
 田所が釘を刺す。
「僕の一生が掛かってるんだ! 頼むよ」
「咲哉の一生は、何回あるんだよ」
「ボス!! 今度こそ本当なんだって!」
「橘君にも、ひょっとしたら今日が一生の出来事かもしれないだろう?! それを潰すのか、お前は?! お前の一生とやらで!!」
「そんなの俺には関係ないことだから!」
 あかりは咲哉のその言葉に引いていると、咲哉はハッとして、
「男か?!」
 なんて、単刀直入に聞いてきた。
「それはプライベートですもの」
 あかりはごもごもした。

「ダメになったら、それまでの男だと思え」

「ちょっと、それはひどいと思いますけど?!」
 あかりはムキになった。
「ごめん。けど、これは現場を知るには勉強になると思うんだ」
 確かに、なんて田所は思ったが。

 あかりは考えに考えて、
「何時ですか?」
 と、聞いた。咲哉の表情が途端に明るくなった。
「6時だ」
 6時か......。海都との食事は8時に約束。
「待ち合わせ時間が8時なのですが......」
「大丈夫!! そんな掛からないから!」
「なら......。イロハも教えて下さるんですよね」
「もちろん!! 下で車を待たせているから!」
「分かりました」
 二人は部屋から去って行く。

 二人のやり取りを聞いていた田所は、やれやれ、なんて思う。
 田所は窓から様子を見てみる。

「ガチな一生のお願いだなぁ」
 何かを悟って溜め息を吐いた。

「ん?」
 するとまた隙間を覗いてみたら、坪平海都が少し立ち止まっていた。見方がまるで昔流行った刑事ドラマのワンシーンだ。
 海都は何を思ってか、またスタスタと歩き出していた。

「......いい方へ向かうといいけど」
 もし違ったら、そうしたら擁護してやるから、なんて田所は思った。 
 
 

 

 



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