紳士な弁護士と偽りデートから
 ふと、海都は歩く足を止めて、
「......もし、嫌でなければ、手を繋ぎませんか?」
 と、言ってくれた。
「いいのですか?」
「橘さんが嫌でなければ......」
 少し気まづそうに話す海都。
 あかりはくすり、と、して、
「喜んで」
 と、言って、手を差し伸べた。

 初デートのような感覚だと、二人は思えた。

 匠は一夜を共にしたあの時の高級ホテルに向かった。
「どうしてそんなにお金があるのかしら?」
 あかりは不思議に思った。
「ん?」
「この間も、このホテルでしたし。例の女性は、わたしと同期で、経理部なんです」
 海都は目を見開き、
「経理部?!」
 と、声を上げた。
 そうして、さりげなく二人を見てみる。ラグジュアリーなロビーに相変わらず、憧れの溜め息が出る。
 遠くからエレベーターに向かう二人を見た。ちょうど一組だけだったので、何階に降りたのか分かった。
「スィートの階ですね」
「......リアルですね」
 海都はついそう言ってしまうと、あかりは大慌て。
「ごめんなさい、つい......」
 焼きもちを妬いて意地悪を......。なんて海都は言えなかった。海都は苦笑して、頭を下げただけだった。

「考えたくはありませんが、ひょっとしてあの人が不正を......」
 海都はポツリと言った。
 
 彼女は少し冷たいところがあるけど、あかりにはないところがあるので、憧れてはいた。
 あかりの悲しい顔を見た海都は、
「い、いえ、すみません。証拠もないのに!」
 と、慌てた。
「証拠を見つければいいのですね」
 彼女ではないという証拠を見つければいい。前向きになったあかりは、頷きながらそう言った。
「......危ないことはなさらず.........」
「いいえ、パソコンで見るだけですから」
 あかりはニコリとする。

 ラウンジで一杯お酒を飲み、夜は9時を過ぎる。
「最寄りまで送りますね」
 海都がポツリと言う。
「ありがとうございます」
 あかりはこの人なら、最寄りではなくても家まで送って欲しい......、なんて願うが紳士的だ。
 匠のように野獣ではない。でもあの時は、わたしもよくなかった......。と、思うあかりだが。

 帰り道は結構暗いところがあるので、結局、海都はアパートまで送ってくれた。
「家までありがとうございました!」
 あかりは頭を下げた。
「いえ。結構暗いところで、不安でしたから......」
「普段は遅くならないので。まったくコンビニも寄らないですし」
「そうですか」
 海都はニコリとした。
「では!」
「はい。海都さんも、お気を付けて」
 海都は帰っていく。

 なんて紳士的! あかりはつい匠と比べてしまう。
 三隅さんや奥様も匠の実態を知ればいいのよ。あんな綺麗な人たちを騙すなんて酷い。
 あかりは、腹を立てた。
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