紳士な弁護士と偽りデートから

女の意地

 決意をしたあかりは、一人で高級ホテルへ向かった。ロビーにはすでに匠が待っていて、コーヒーを飲んでいた。そんな姿を見る女性たちは、憧れの的ではあるが、素行は最低だ。
 匠はあかりを見つけると、嬉しそうに微笑み、手を上げた。

 あの微笑みは裏がある。

 あかりはおぞましく感じられた。あかりの引きつる顔。
 
「部屋の番号って?」
 あかりは聞いてみる。
「スィートの1115だよ。あかりだから、特別だよ」
 よっく言うわ。三隅さんの時も、スィートだったのに。鳥肌が立った。営業の人って、なんて口が上手なのかしら。
「ちょっと、トイレ行ってきていい?」
「うん」
 匠は素直に言った。馬鹿な男ね。
 あかりはある人にLINEを入れた。以前LINEしたら、既読が着いていたから、少しは安心したが返信はこない。こうなったら、一人で戦うしかない。けれど、覚悟は決めていた。

 トイレから戻り、あかりは、
「スィートなんていいの?」
 と、聞いた。
 家計を切り盛りしているのは、奥様だ。 
「特別だって言ったでしょ」
 匠はふふっ、と、笑って、カードキーを差し、ドアを開けて、閉めようとした。

 ガンッ! という乱暴な音がすると、パンプスが挟んであり、あかりはゾッとした。
「な、何?!」
 匠も驚く。

 その姿は、三隅華絵だった。
「どうして?」
 あかりは青ざめて言った。
「休憩室でこっそり、あなたたちの行動を見ていました。そうしたら、あかりさん、色々小細工をしていたじゃない」
 あんなこっそりやっていたのに、見られていたんだ。
「..........」
「なんだッて? どうゆうことだ?」
 じりじりと二人に迫られるあかり。
「な、なんのこと?」
「とぼけないで!」
 華絵は強行突破に出て、あかりのハンドバッグを横取りしようとしたが、あかりは慌てて、ハンドバッグを掴み取った。

 どうして強気でやれるのか、あかりは分からない。この強さはどこから?!

「匠さんの素行は知っていたわ!」
 
 あかりと匠は目を剥いた。
 知っていたということは、奥様がいたのを知ってたのね。
「で、では......、他の女性もひょっとして......?」
 聞きたくないことを、聞いてみる。
「ええ」
「やっぱりサイテイ!」
 あかりは声を上げた。
 匠は悔しそうに唇を噛み締めた。

「くっそ! ただ遊んでいただけなのに!」
 匠が開き直って、声を上げた。

 このっ!!
 あかりは感情まかせに、手を上げようとしたら、
「わたしはそれでもよかったの!!」
 と、華絵が声を上げた。
「だって、匠には奥様がっ!」
「好きになってしまったのよ!!」
 あかりは気まずくなって、むにゅむにゅした。

「誰に渡すか分からないその証拠を、渡しなさい!」
「冗談じゃないわ! わたしだって脅されてたんだから!」
「わたしはそんなことなく、愛されていたわっ」
 華絵は氷を割るピックを氷入れから取り出して、あかりに向けた。
 怖かったが、あかりは負けじと睨む。

「その証拠を渡してしまったら、もう会えなくなるじゃない!!」

 ああ、それで強いのね。あかりは納得した。だが、ピックを武器とは、度が過ぎている。




  
< 9 / 15 >

この作品をシェア

pagetop