影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
けれど、三十五という年齢で、まだ独身。

それも資産も地位もあるというのに――

(よほど、性格に難があるのかしら。それとも……何か、噂があって避けられていたのか。)

心の中で悪い想像が膨らむ。

だが同時に、どこかで期待している自分もいた。

(もしかして――ただ、縁がなかっただけで、優しい方だったら。)

けれど、そんな淡い願いを抱いたところで、私は彼の“本当の妻”ではない。

(私は……偽りの花嫁。抱かれることすら、罰のように思える。)

それでも、私はもう風呂敷を抱えていた。

今さら、後戻りはできない。

「お嬢様、そろそろ御馬車のご用意が整いました」

女中の声に、私はそっと顔を上げた。

唇を噛みしめて、うなずく。

(――黒瀬誠一郎様。あなたは、どんなお方なのでしょうか)
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