影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
――身体を、与えること。

(知らない人に、肌を触れられる。唇を、奪われる。夜ごとに……)

私はぞっとした。

誰にも見せたことのないところを、知らない誰かに晒すのだ。

(そんなこと、できるはずがない……)

けれど、姉は冷たく言い放った。

「でも、あなたしかいないのよ。梨沙。あなたが行かなきゃ、家の名が潰れるわ。」

父は何も言わない。ただ、重たいまなざしで私を見ていた。

選択肢など、最初から存在していなかった。

嫁入りの支度が整えられていく中、私はふと立ち止まり、畳の上で手を重ねた。

(でもどうして――
 そんな歳まで、結婚をしなかったのでしょうか)

黒瀬誠一郎。

名前は知っている。

近代化の流れに乗って急成長した黒瀬財閥の、若き当主。

“三十五歳”と聞いたときは正直、恐怖にも似たものを覚えた。

私はまだ十八。

歳の離れた男性に肌を預けることなど、想像もつかない。
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