影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
それから誠一郎さんは、毎日のように軍三郎さんの、私のいる屋敷に来てくれた。

「また来たのか。」

軍三郎さんは縁側でひなたぼっこをしながら、煙管をくゆらせていた。

庭先に立つ誠一郎さんに、呆れたような目を向ける。

「ここは遊郭じゃないんだぞ。」

「心得ております。」

誠一郎さんは姿勢を正し、軍人相手にでも堂々とした態度を崩さない。

むしろ敬意をにじませながら、毎日こうして会いに来ていた。

「今日もまた……頑張るのか?」

「はい。」

即答だった。

私は思わず顔が熱くなるのを感じて、そっと柱の影に身を隠した。

「やれやれ……あれは戸籍上、わしの妻だぞ。」

軍三郎さんがわざとらしく溜息をつく。

「……そこで、お願いにあがりました。」

「なんじゃ。」

煙を吐きながら、軍三郎さんがちらりと誠一郎さんを見やる。

その瞬間、誠一郎さんは深く頭を下げた。
< 101 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop