影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「奥さんを、この誠一郎に下さい。」

軍三郎さんの動きが止まった。

煙管を見つめたまま、しばらく黙っていたが──

「……ほう。」

ようやく一言だけ漏らす。

「どれほど、梨沙が欲しい?」

「命を賭けても、守りたいほどに。」

その言葉に、私は思わず口元を押さえた。

胸がぎゅっと締めつけられ、涙が浮かぶ。

「ふん……年寄りのわしが手を出すまでもなかったか。」

軍三郎さんは、ゆっくり立ち上がり、誠一郎さんの肩をぽんと叩いた。

「梨沙を……幸せにしてやれ。」

「はい。必ず。」

軍三郎さんは空を見上げ、少しだけ寂しそうに笑った。

「まったく……最近の若い男は、いい意味で抜け目がないのう。」

そして、ゆっくり屋敷の奥へと去って行った。

その背中に、誠一郎さんは頭を下げ続けていた。

私は柱の影から、そっとその様子を見つめていた。
胸がいっぱいで、声にならなかった。

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