影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
(……男らしい人)

初対面のはずなのに、そう思ってしまった。

誠一郎さんは微かに口元を緩めると、私の方に向き直った。

「さあ、君の番だ。」

「……ええっと、何て言えば……」

動揺して声を詰まらせた私に、彼はわずかに笑って言った。

「同じように言えばいい。」

(……言えばいい。それだけ。わかっている)

私は両手のひらに汗をにじませながら、小さく息を吸った。

「私……高嶋梨子は、黒瀬誠一郎さんを夫とし、生涯……」

生涯。

その言葉が、喉に引っかかる。

(生涯? ――私がこの人の“妻”でいられるのは、いつまで? この嘘が、いつまで許されるの?)

手が――震えていた。

それを悟られまいと、私は袖の内側で指を握りしめる。

けれど、そのとき。

「離婚はしない。」

隣から聞こえた誠一郎さんの言葉に、思わず顔を上げた。

低く、けれどはっきりとした声だった。
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