影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「……はい」

そんな、忙しい人だったなんて――

思い描いていた“夫”の姿とは違っていたけれど、

どこかほっとしたのは、その声に刺がなかったからかもしれない。

彼は私の正面に立ち、両手をそっと取った。

大きな手。けれど、その握り方はとても優しかった。

「では――結婚式をしよう。」

そう言うと、誠一郎さんは私の手を軽く持ち上げた。

「西洋では、結婚式のとき“誓いの言葉”を述べるらしい。」

「……誓いの、言葉……?」

私は戸惑って彼を見上げた。

そのとき、彼の口元がゆっくりとほころぶ。

「私、黒瀬誠一郎は――高嶋梨子を妻とし、生涯大切にすることを、皆の前で誓う。」

誠一郎さんの低く響く声が、広間に静かに落ちた。

その瞬間、親族席から控えめな拍手が起こる。

形式的なものとはいえ、それでも彼の言葉には、確かな力があった。
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