影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「ええ。けれどそのお相手の方が、少し身分の低いご出身でね。私や主人が反対しているうちに、病を患って――そのまま、お亡くなりになってしまったの。」

「……亡くなった……?」

私は、言葉を失った。

まさか、そんな過去が彼にあったなんて。

(もしかして……忘れられない人がいる?)

そう思った途端、胸がちくりと痛んだ。

「その後は、ずっと一人で……もしかして一生、独身かとも思っていたのだけれどね。」

文江夫人は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

私は、視線をそっと前方へと送った。

誠一郎さんは、親族の一人と穏やかな口調で言葉を交わしていた。

笑っている。でも、どこかその笑顔の奥が、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。

(――もう、その方を忘れたのかしら)

(それとも……)

私の胸に、ひんやりとした風が吹き抜けた。

(私は、その人の代わりなのだろうか)

偽りの名前。

偽りの結婚。

そして……誰かの面影を追うための、代わりの花嫁。
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