影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
厳格な家の出身と聞いていたが、想像していたよりも、ずっと柔らかい雰囲気の人だった。

「誠一郎、大分年上だけど……とても優しい子よ。お嫁さんには、優しくするよう伝えてありますから。どうか安心してね。」

「……ありがとうございます。」

私は、深く頭を下げた。

――“梨子”として。

けれど、その言葉がどれほど救いになったことか。

まるで“私自身”が受け入れられたような錯覚すら覚える。

(でも……それは、私のものではない優しさ)

胸が締めつけられる。

それでも、私は笑った。

「だけど、あの子も……やっと結婚を決めてくれてよかったわ。」

文江夫人がふと遠くを見つめるようにして呟いた。

「……そうなんですか?」

私が問うと、夫人は静かにため息をついた。

「本当はね、恋愛結婚がしたいと、そう言っていたの。誠一郎がまだ二十代の頃よ。」

「……恋愛、ですか?」
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