影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「お風呂のご用意ができております」

声をかけられ、私は「頂きます」と頭を下げた。

脱衣所で帯を解き、そっと湯に浸かると、あっという間に緊張がふわりと溶けていった。

「はぁ……」

湯船のぬくもりが、身体だけでなく心までほぐしてくれるようだった。

(今日一日……何が何だか分からなかったな)

着替え、式、誓いの言葉、親戚の視線、誠一郎さんの瞳――

一つひとつが夢のように過ぎていった。

思わず湯の中で目を閉じる。

(……もう、寝てしまいたい)

けれど――その時だった。

コン……コンッ

木戸を軽く叩く音が、静かな浴室に響いた。

(え……?)

反射的に身体を縮こませる。

「誠一郎です。……入ってもいいか?」

――誠一郎さんだ。

思わず湯の中で息を止めてしまった。

「……あの、い、今、お風呂に……!」

「知っている。……けれど、話がしたくて。」
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