影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
低く落ち着いたその声は、戸の向こうからでも私の鼓動を早めた。

(結婚したのだから、当然のこと……でも、まだ心の準備が――)

けれど、“断る”という言葉は、口の中でほどけてしまった。

「……はい。……お待ちしております。」

自分でも驚くほど、小さな声で答えていた。

ガラリ――

不意に浴室の戸が開き、私は驚いて湯の中で身をすくめた。

入ってきたのは――

何も身に着けていない誠一郎さんだった。

「……っ!」

思わず背を向け、湯の中に肩まで沈む。

(うそ……っ、まさか一緒に……!?)

誠一郎さんは、何事もなかったかのように体を流し、そのまま湯船へと入ってきた。

「はぁ……落ち着くな。」

(こっちはまったく落ち着きませんっ……!)

湯の表面に浮かぶ波紋が、静かな浴室に広がる。

ぴったり隣にいるわけではないのに、誠一郎さんの体温が湯を通してじんわりと伝わってきた。
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