影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「俺は、結婚するなら……お嬢様がいいんです。」

庭先の陽だまりで、小太郎君はまっすぐにそう言った。

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

それは、ずっと夢に見ていた言葉だった。

(私が……誰かの妻になれるなんて。)

「……小太郎君……」

私は震える唇でそう呼んだ。

小太郎君は、私の手を取って、そっと額に口づける。

「俺、本気です。だから……旦那様にお願いしてみます。」

その言葉が、どれほど嬉しかったか。

けれど――次に聞こえてきたのは、屋敷中に響き渡る怒号だった。

「何⁉ 小太郎、おまえ、娘に手を出したのか!」

父の怒鳴り声に、私は息を呑んだ。

廊下に駆け出た時、小太郎君が頭を下げているのが見えた。

「手は出していません! でも……俺は、梨沙さんを、どうしても、頂きたいんです!」

「バカなことを言うな! 妾腹の娘とはいえ、高嶋の名を背負う者だぞ!」

「分かってます! でも俺は、身分なんて関係なく――」
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