影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
そう言って微笑む誠一郎さんのお母様に、私は頭を下げる。

どこか本当に、“妻としての暮らし”が身についてきたような気がしていた。

けれど――

その日、屋敷の門に立っていたのは、懐かしくもどこか背筋が伸びるような人だった。

「……ときえさん」

実家のばあや。

本家仕えのときえさんは、私たち双子の世話を幼い頃からしてきた人物だ。

姉――梨子の教育係として有名で、特にしつけには厳しく、母屋の女中たちでさえ頭が上がらない存在だった。

「新しい家庭にも……慣れましたか?」

一見、柔らかく聞こえるその声に、私は思わず背筋を伸ばしていた。

「……はい。ご家族の皆様にも、よくしていただいております。」

(様子を探りに来たのだろうか。)

ときえさんの視線は、優しげに微笑みながらも、まっすぐに私の所作や言葉遣いを見極めているのが分かった。

「奥様として、戸惑いはございませんか?」
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