影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「産むのはあなたでも、ねぇ……育てるのは――“本家のご令嬢”ということで」

(……梨子お姉様?)

ぞくっと背筋が冷たくなる。

つまり――私は産むだけの存在だと?

育てる愛情すら、与えられない存在としてここにいると?

喉が詰まりそうになる。

(私が……母になってはいけないの?)

すると、その時。

「――その必要はありませんよ。」

低く、しかし凛と響く声が、部屋の空気を一変させた。

振り向くと、誠一郎さんが立っていた。

立ち姿は変わらず穏やかだが、その瞳の奥には確かな意思が光っていた。

「子供が生まれたら、私たち“夫婦”で育てます。誰の手も、いりません。」

一瞬、ときえさんの眉がピクリと動いた。

だがすぐに、何事もなかったように立ち上がると、「……左様でございますか」と一礼して、その場を去った。

戸が閉まる音がするまで、私は動けなかった。

「……聞いてたんですか?」

「全部ね。」
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