影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
「奈保さん……」

「新しい人ができたら、この写真を燃やしてくれって、そう言われた。」

誠一郎さんの横顔が、どこか寂しそうで、切なかった。

その瞬間、私は思ってしまった。

――まだ奈保さんが、誠一郎さんの中で生きている。

私がどれほど抱かれても、誓われても、この胸の奥には別の人がいるのではないかと。

そして、心に小さな棘が刺さった気がした。

「もう、奈保を忘れる。」

その言葉に、私は思わず誠一郎さんを抱きしめていた。

「いいんです、私なんかの為に……」

声が震える。

所詮私は政略結婚で来ただけの身。姉・梨子の代わりに過ぎない――

その想いが胸を締めつける。

「私なんかじゃない!」

誠一郎さんは、私をぎゅっと強く抱きしめた。

「今は、梨子だけなんだ。君がいてくれるだけで、俺は救われてる。癒されて、生きてるって実感できるんだ。」

その声に、胸が熱くなる。

私はもう、梨子ではない。

誠一郎さんにとっての、たったひとりの“妻”になりたい。

私達は、深く口づけを交わした。

それは、過去の影を越えて確かめ合う、愛の証だった。
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